人間だもの…の「科学の限界」

「科学の限界」(池内了)

技術と、それを運用する英知の進歩ペースにはズレがあるし、
技術は積み重なるけど英知は断絶しかねないし、
心理的なバイアスや錯覚もあるよ、
複合的に取り組むべき課題にも縦割りの壁があるよ、人間だもの、という本。

軍事化、商業化で科学技術の開発が歪むことはあるけど、
扱うデータや実験の規模からして国家や大企業が関わらないと無理になっているそうな。
地道な積み重ねが必要な分野こそ、厳しい現実がある。

天才が現れれば別、大発見があれば一気に光明が、
なのかもしれないが。

原発事故で無力感にさいなまれた科学の現場を語る本でもある。
面白かった。


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大事なことなので何回も「決着! 恐竜絶滅論争」

「決着! 恐竜絶滅論争」(後藤和久)

K/Pg境界の大量絶滅は小惑星衝突によるものだ、という説を多面的に語る。
まずクレーターがあるから小惑星、巨大隕石の衝突は明らかであり、
それによって生じた環境の変化をシミュレートしつつ、
地層から導かれる生物相の変化にもそれは表れている…など、丁寧に検証。
さらに火山の噴火、漸進的な絶滅など他説へのツッコミを指摘していて、
「小惑星衝突がもっとも説明できる要因」とする。

読む方としては、ナルホドと思うのだけど、一次資料にあたるでもない。
でも、さすがにここまで検証してあれば「わかった」で了解したい。
というか、小学生のころから隕石衝突で気候が大変動して……というように学んだんだけど、
なんか違ったっけか、とも思う。

この本は、半分が自説の解説で、半分は研究発表や世間への意見表明になっている。

一般的にも研究者の間でもすでに「小惑星衝突でOK」となっているのに、
このような「確認」が専門書とはいえ一般書店で買えるように発刊されたのは、
筆者の「まだ説が分かれていると思っている人が多いから」の熱意に基づく。

なぜか。
他説の支持者・研究者が論文を書いて、それをプレスリリースとして流したことがあったそうな。
論文は論文で、査読されてはいるけど引き続き検証の対象になりうる説にしかすぎないのに、
プレスリリースにしてメディアに流れることで、
「通説と異なる説が出た」というニュースになる、と。
そこで世間的に「まだ説が分かれている」と思われる。

でもそれ、検証が浅いんだけど? と思う人、気づく人、調べる人はごく少数。
見出しだけでも十分な影響になる。

ニュースは新しい、悪く言えば変で異で妙なものでなくてはいけない。
「定説がさらに深まった」よりは「異論が出た」ほうがいい。
そういうものといえば、そんなだ。
でもそれによって、検証を重ねた仮説と浅い仮説が並列になるのは困る。
本書は研究現場からの叫びでもあるんだな…。

iPS細胞臨床のあれこれも、根は同じなのかも。


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見えているものが世界で、それでいい。「ペコロス」の肯定。

「ペコロスの母に会いに行く」(岡野雄一)

認知症の母のもとへ日参する62歳の漫画家による訪問記。
「ペコロスの母」というのが母を指してるかと思ったけど、ペコロスとは作者の愛称。
タイトルは「ペコロスが描く『母に会いに行く』」ということか。

あいまいな知覚の中で何十年分の時間が溶け合う。
客観的にはつらいものとして捉えている認知症の描写が、なぜか幸せそうだったりする。
もう治らないのだから、本人が幸せなのだから、見えている世界を真実として肯定していい。

まぁいいか、の気持ちよさ。

ここまでくると、世界の中に人生があるんじゃなくて、
人の意識と人の間にあるものを世界としていて、いいんだな。

究極のひとりよがりだから、介護施設の中でやっと成立することなんだけど、
向き合い方として、肯定したい。

しかし、各所に笑っていいのか悪いのか、判断しにくいネタを振ってきてズルい。(面白い)


実写映画化も制作進行中らしいけど、これ、難しいよなぁ。
老いゆくさびしさと、人生の豊かさと、七味の思い出と、リアルなボケ。
泣かせる、笑わせる微妙なトコは、リアル演技だと生々しそう。


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ラノベの主人公が“抜き屋”

「ビアンカ・オーバースタディ」(筒井康隆)

巨匠がラノベを、という企画のもの。「太田が悪い」でおなじみ。
ツツイがラノベを書いたらしい、21世紀の時かけらしい、いきなり直エロ、「太田が悪い」って…と、釣り針たくさん。

ツツイが、というのでもちろん釣られる。

ラノベとしては女子が主人公なのが珍しいし、読んでみれば元々の筒井康隆テイストだった。
御大にしてみれば「ラノベラノベと騒いでいるがワシは昔からやっていた」とか言いたいのかもしれない。
構え方からして今の「ラノベなるもの」にふっかけてる何かがあるような。

では、筒井作品として読んでみてどうかというと、いまいちハジケてない気もする。

もっとカオスでグッチャグチャにできる舞台だと思ったけどな……
時間と遺伝子いじってるんだし、こう、恐竜やらキメラやら、人間改造やら、なぁ。
そういうありがち、軽薄なのとも違うのか。


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キャプテン、野球やめないってよ。

「桐島、部活やめるってよ」(浅井リョウ)
映画を見て、原作も読んだ。平積みの分がなくなって棚差しの残り一冊を買ったのだけど、売れてるんだろうか。
後で読んだ原作は、映画とのパラレルワールド的に読めた。
桐島不在も、いろいろある困ったことのひとつなんだね。
やわらかい青春。

以下で、映画の感想を…。

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「マジオチくん」が同人誌でも単行本でも面白かった

5月のコミティアでなんとなく手にした「激オチくん」が激面白かったので、単行本の「マジオチくん」を買ったのだった。
どっちでも面白かった。
歯を食いしばったクリーム色の妖精が、そこそこ受け身なんだけどヤケッパチ。
「ンーーーー!」としか言えない状況ってあるよね。

コミティアという場所で、事故的に、偶然知ったから面白いのかもと思ってたんだけど、
一般流通で待ち構えて買って読んでも面白かったことで、どこか安心した。

ずいぶん前からなんだろうけど、同人/商業って区分けはクオリティ上下の階層じゃなくて、流通の違いでしかないよね。
(流通してる現場に何かしらの特徴はあるとして…)


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「21世紀への階段」の直接発電ってどこいったんだ

「21世紀への階段(第1部)」読んだ。
1960年初版刊行で、監修は科学技術庁。監修委員長は当時の科技庁長官で原子力委員長の中曽根康弘。

原子力、コンピュータ、医療、気象観測、都市と農村などなどについての、政府公式青写真と言える。
40年後を見据えて、具体的な到達点を確認しておこう、というものだ。

当たってるとか外れたとかはおいといて、当時の技術、研究から積み上げて「こうなる」話が広がっていて、
読んでいると確かに「うわー、期待しちゃう!」となる2012年。

調べてみると2006年ごろには検証されて、4割実現してたそうな。
(そのニュースで「欲しいものリスト」に入れてた)
(長らく品切れになっていたのだけど、どこぞの古書市で発掘されたのか、いつの間にか出品されていた)

都市交通はモノレールが中心になるし、クルマは時速300kmになる。
ベーリング海峡を封鎖して海流や海面温度も変わっちゃう。
変える、変えられるんだ、という意欲にあふれていて、経済成長の糧になるよな、そりゃ。
リアルタイムで読んだら、夢は広がるさ。


原子力関連については、
まずウランが国内で採掘できてないとか、
高速増殖炉もあのざまであるとか、
20年以内に核融合反応でエネルギーを取り出せるとか、
いくつもの面でズッコケており、(当時の研究者がどうってんじゃなくて)残念だ。

蒸気でタービンを回す発電じゃない直接発電の例で、磁気流体を使うMHD方式が語られているけど、
どうもうまくいかなかったらしい。

科学の進歩は難しい。
エネルギーについては、日本っていつもいつも裏目に出てないか。

今のご時世で、こういう本を政府が出すとしたら……マニフェストも信用されないのに、無理か。


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「家電でオタク×擬人化」を女性漫画でやる「家電の女」

「家電の女」1(西山優里子)読んだ。

家電好きだけど人間が苦手なエリート美女が、家電の妖精的な存在(イケメン)に助けられて……という話。
掲載誌はkissで、大人女性向け。
実在の家電が出てくるので、機能のウンチクも仕入れられる。
ちょっとした情報漫画の面がある。

実在製品を出すだけに、「新製品のくせにつかえねぇ!」みたいなツッコミ展開にはならないと思われる。
海外の家電が楽しみだな。どんなキャラになるんだろうか。態度はデカいだろう、とりあえず。

主人公はエリート美女だし、いまのところ生活家電がネタになってるから、
話が「女性の生活の悩み」になってるんだけど、
実は内向的で会社でのコミュニケーションにも問題が……という主人公像は、
古典的なオタク像に近いと思う。よりベタというか、わかりやすい。

突飛な企画のようでいて、ドコモのCMでやってることといっしょだし、
擬人化だったら「ヘタリア」のヒット例もある。
世間的にもわかりやすく受け入れられるのではないか。

でも作者は家電オタクっぽくないんだよなー。スタッフでガッチリ固めてるのかしら。


家電萌え漫画の「炊飯器少女コメコ」はどっちかといえば男性向けなんだけど、
主人公は家電オタクじゃないんだよな。
男主人公で家電オタクだと、漫画のキャラとしてはフツーになっちゃうからかなぁ。
(そもそも企画が異なるね)


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ポケモン頂上対談を聞くには教養がいる。

「ポケモン世界チャンピオンに聞く」(ロマンサー)を読んだ。

世界チャンピオン経験者が、いかにして勝ったかを振り返る。
聞き手も有数のポケモントレーナー。

将棋や麻雀の頂点を極めたひとが語るように、勝負論、精神論、人生観などが導かれている
……ということはまったくなくて、終始、ポケモンバトルの戦略について語っている。

ポケモン歴やバトルへの取り組み方から、ポケモンバトル以外に感じる何かが学べることはまったくない。
(人によるのかもしれないが)
思いっきり間口を狭めているし、図版や補足説明も一切ないので、マニアックすぎて気持ちいい。

この手の勝負本、チャンピオン本では、ついつい
「ポケモン知らないひとにも、バトルの真剣さや盛り上がりが伝わるように…」
とか、エディトリアルのスケベ心が顔を出しそうなところなのに。
一般受け? しらねえよ!
ってなもんで、清々しい!

そもそも、教養を得られそうな(笑)新書っぽい体裁なんだけど、実はムック。
そこから面白い。これ、羽生名人の新書の隣に並ばないかな。
かっこいい企画だ。異常で異形だけど。



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観測できない何かがある「オカルト」

「オカルト」(森達也)

「職業欄はエスパー2」連載のまとめ。
見ようとすると隠れる、科学的でないけど、人間の近くに入り込む現象について。
一人称でしか語れない、5W1Hまでそろわないと説明できない題材と、森達也ルポの相性がガッチリ。
見る、疑う、受け入れる、あきれる、途方に暮れる。すべて正直なリアクションだ。
主人公・森達也のキャラがハマりすぎている。

読んで信じるか信じないか。
現代科学では観測できない何かはあるんだろうけど、役に立たないからスルーされてるって面はあるかもしれない。
というくらいには、信じてしまえる事象も載ってる。
ただ、テクニックであると自称するメンタリズムを前にすると、それもまた揺らぐ。
占いや霊視の能力を持つ(と自称する)ひとが、天然で(自己暗示までして)メンタリズムを駆使しちゃってるケースってないのかな。
高度な科学は魔法と同じ、みたいな。


「わらかない」「否定できない」から「ある」とはいえないんだけど、
ちょっとでも匂わせたら「ある」派が有利。
実害があるなら別だけど、基本的には乗って楽しめたらいい、といえばいい。


「ムー」とかだと写真一枚で壮大な現象を語ったりしてて、
ネタを「あえて受ける」テクニックが強く要求される趣味なんだろうけど、
まったく別角度の「信じさせ」技術だな……。
(信じさせようと思って書いてるわけじゃないけど)

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